はじめに
わたしたちの暮らしの多くは、植物や化学物質で支えられているといっても過言ではありません。地球上には約8万種類の化学物質が存在します。多系統の植物にいたっては20~30万種あり、それぞれが約6千種類の代謝化合物(主に植物自らが成長・生存するための核酸、有機酸、アミノ酸などの一次代謝産物と一次代謝産物が分岐して生合成されたフェノール、アルカロイド、テルペンなどの二次代謝産物)を産生しますが、その無数の化合物のほとんどは未だに科学的な検査や生物学的影響解析がなされていない状況であることから、有用物質の探索や人体の細胞の働きに障害をもたらす物質(内分泌かく乱物質)などを包括的に調査する必要があります。
内分泌かく乱物質の影響
人体は数十兆個の細胞から形成されており、それぞれの細胞がひとそろいの遺伝子のセット(ゲノム)を持っています。ヒトの遺伝子数は3~4万個といわれており、それらが親から子へ伝えられます。遺伝子はそれぞれが必要とされる場で働き、脳や心臓など異なる働きを持った細胞の集団が体の中で協調しながら役割を果たしています。その協調作用を仲介する物質のひとつにホルモンがあります。もし、そのホルモンをまねる物質(内分泌かく乱物質)が人体に取り込まれると、その協調作用が乱れ(受容体結合の阻害・促進、生合成の阻害・促進、受容体数の増減、視床下部・下垂体への調節機構阻害)さまざまな病気の原因や胎児にも影響を与える可能性があります。
3Dデータベースモデルによる化合物の影響解析
これらの問題を解決するには、一つは環境汚染の発生を適正なモニタリングにより未然に防ぎ、正確で迅速な検出をおこなうこと。もう一つは豊かな生活を送るために必要とされる、さまざまな化合物(化学物質や植物性化合物など)の安全性を正しく評価することが必要です。従来の評価方法としては、インビトロのリガンド結合試験、リポーター遺伝子試験、タンパク質の発現を測定するELISA法のほか、インビボのMCF-7の細胞増殖応答が使われていましたが、DNAマイクロアレイを用いた3Dデータベースモデルでは、さまざまな物質の遺伝子発現プロファイリングとクラスタリングによる遺伝子機能への注釈(有用遺伝子機能探索)、タンパク質の構造や機能を解析できるプロテオミクスの組み合わせにより、大量のデータを網羅的に解析することが可能です。
エストロゲン応答遺伝子
2つの異なる包括的なDNAマイクロアレイ(UniGem, version2、GeneChip,U95A)により人体の約20,000種の遺伝子から再現性のある203種(うち172種はエストロゲン応答遺伝子)を選定。これにより試験物質に対する生物学的影響(エストロゲン応答遺伝子の転写レベル)を網羅的に評価することが可能です。