エストロゲンによる制御

はじめに

人体は細胞の協調作用を仲介する信号物質(ホルモン)を内分泌器官(脳から成長ホルモンやメラトニン、副腎からアドレナリン、膵臓からインシュリン、精巣からテストステロンなど)より分泌しています。中でもステロイドホルモンの一種であるエストロゲンは、内分泌器官の卵巣から分泌しますが、その信号は間脳の視床下部が司り、交感神経、副交感神経機能および、内分泌機能を調節(フィードバック機構)し、標的器官(受容体が存在する細胞)である脳、視床下部、免疫系、心臓、乳房、子宮、卵巣、肝臓、血管、皮膚などに直接信号を発し、本能行動〈睡眠、異性への意識・女性らしさ〉にも影響を及ぼし、人体の恒常性維持に関わる重要な役割を担っています。

図1 エストロゲンの分泌と調節機構
図1 エストロゲンの分泌と調節機構

エストロゲンの産生

性成熟期の前半(およそ18~37歳)は、正常なエストロゲンの分泌にともない月経周期が安定します。エストロゲンは視床下部・下垂体から分泌される性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)である黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)の作用により卵巣で産生されますが、月経周期の卵胞期(月経~排卵)では、卵胞外側の莢膜細胞とLHの結合により生体膜の構成成分である血中コレステロール(ステロイドホルモンの生合成原料)からアンドロゲンを産生します。産生されたアンドロゲンは卵胞内側にある顆粒膜細胞へ移送されて、顆粒膜細胞とFSHの結合により活性化された芳香化酵素(アロマターゼ)の芳香化反応でエストロゲンへと転換されます。産生されたエストロゲンはFSHの作用増強、卵胞自体の発育や各標的器官の恒常性調節に関与します。

図2 卵胞期におけるエストロゲン産生の機序
図2 卵胞期におけるエストロゲン産生の機序
エストロゲンは、卵胞の発育にも影響を与え、卵胞期におけるエストロゲン産生(図2)は排卵期まで続く。エストロゲン濃度が上昇し、一定の濃度を超えると、視床下部へのポジティブ・フィードバックによるLH の分泌増加(LH サージ)により排卵が起こる。排卵後の卵胞は、LH の作用によって受精卵の着床に備える黄体を形成(黄体期)し、主にプロゲステロンを産生。エストロゲンは一定の濃度を保ち、プロゲステロンとともに子宮内膜に作用。受精卵が着床しない場合、黄体は萎縮し、子宮内膜が剥がれ月経期を迎える。
※エストロゲンは副腎皮質や妊娠中の胎盤、黄体期の黄体からも産生される(図は省略)。

遺伝子の制御

思春期から閉経期まで卵巣から分泌されたエストロゲンは遺伝子の発現量を制御することにより標的器官の生理機能を調節しています。エストロゲンは細胞の核内受容体と結合し、遺伝子の発現制御はmRNAを通じておこないます。遺伝子情報の元で転写されたmRNAは細胞質に核外輸送され、タンパク質の発現を制御します。エストロゲンはこのような遺伝子の制御機構を介して、月経や妊娠・出産だけでなく、脳、視床下部、免疫系、心臓、乳房、子宮、卵巣、肝臓、血管、皮膚など、全身の働きに大きな影響を与えます。エストロゲンの刺激による遺伝子発現レベルの変動は、エストロゲン応答遺伝子を搭載したDNAマイクロアレイで確認することが可能です。

図3 標的細胞におけるエストロゲンの作用 図4骨芽細胞におけるエストロゲンの作用
図3 標的細胞におけるエストロゲンの作用 図4 骨芽細胞におけるエストロゲンの作用
一例としてエストロゲンの標的器官である骨芽細胞の代謝(図4)を掲載。エストロゲンは骨芽細胞、破骨細胞内のタンパク質の発現を制御することにより、2つの生理作用を示す。骨芽細胞の場合、カルシウム量の調節(骨吸収を抑える作用、破骨細胞による骨からのカルシウム溶出を抑える)と骨形成の促進(骨芽細胞の分化などを促進)。
※その他標的器官(脳、視床下部、免疫系、心臓、乳房、子宮、卵巣、肝臓、血管、皮膚)の生理作用は省略。

更年期障害

女性の内分泌機能は小児期,思春期,性成熟期,更年期,老年期と変化します。中でも加齢による卵巣機能の低下により、エストロゲンの産生が減退する更年期(およそ45~55歳)は、内分泌機能の調節が乱れ、司令塔の視床下部に影響をおよぼすことから、主に自律神経症状(ほてり、動悸、発汗、のぼせ、手足の冷え)や、精神神経症状(苛立ち、抑うつ、無気力、頭痛、めまい)などの諸症状があらわれます。また、エストロゲンの減少により遺伝子の制御をはじめ、各標的器官の生理機能にも影響をおよぼすことで、今までとは違う感覚と向き合うこととなります。その場合、エストロゲンを補充する方法が一般的です。ステロイド製剤や食品などの天然物質で補う場合は、食経験(経験的知見)の長い素材を使用し、血中半減期が長く、ヒトのエストロゲンと似た生理作用(遺伝子の制御)を持ち、さらには細胞増殖を誘発しないものを用いるのが、理想的で安全な補充方法といえます。

図5 年齢によるエストロゲンの変化
図5 年齢によるエストロゲンの変化
Khosla S, et al. J Clin Endocrinol Metabol (1998)83: 2266-2274
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